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神戸家庭裁判所 昭和42年(家ロ)194号 審判

申立人 ニコライ・フヨードロヴイチ・サホブスキー

申立代理人弁護士 中嶋徹

主文

申立人の申立を却下する。

理由

申立人は「弁護士松井弘行を被相続人サホブ・ケイコの相続財産管理人から解任する」との審判を求め、その理由として「本籍神戸市生田区山本通二丁目一二番地の一、サホブ・ケイコ(旧名エカテリナ・ミハイロヴナ・サホブスカヤ)は昭和四一年二月一一日神戸市灘区篠原北町三丁目四七番地で死亡し相続が開始したが、相続人のあることが明らかでなかったので、昭和四一年二月一六日弁護士熊谷直三が相続財産管理人に選任せられ、その後同弁護士の死亡により昭和四二年一月一七日弁護士松井弘行がその後任に選任せられた。申立人は被相続人亡サホブ・ケイコの兄フィヨードル・ミハイロヴィッチ・サホブスキーの子であるところ、被相続人には死亡当時配偶者・直系卑属・直系尊属のいずれもがなく、しかも申立人の父は一九三七年五月一五日死亡したので、申立人はその代襲者として相続人となった。そして昭和四一年一一月七日附官報による相続人捜索の公告に対し昭和四二年一月二〇日相続人である旨適法に届出をし、同時に相続の承認をしたのであるから、相続財産管理人松井弘行の代理権は民法九五六条第一項により消滅した。よって同人を相続財産管理人から解任する旨の審判を求める」と述べた。

(当裁判所の判断)

申立人提出の資料その他取調の結果によれば申立にかかる事実および身分関係が認められる。しかし、申立人は被相続人の兄の代襲相続人であるから遺留分を有しない相続人であり、被相続人はその全遺産を申立人に相続させないで他に処分してしまうこともできるわけである。そしてさきに当裁判所が検認した被相続人作成名義の遺言書によれば、被相続人はその遺産を特定の個人または施設に遺贈もしくは寄付することを指示し、そのための遺言執行者ならびに遺産の受託者としてハンス・クノフリーおよびビクター・ベアの両名を指定しており、残余財産を生じたときもそれは受託者の裁量に委せられているのであって、申立人の具体的相続分については何ら触れていない。ただし同遺言書は上記両名から相続財産管理人を被告として遺言書の真否と遺言執行者ならびに遺産受託者の地位確認の訴を提起し、現に神戸地方裁判所に係属中であることは当裁判所に顕著な事実である。したがって同訴訟の結果遺言の効力が肯定されたときには申立人は相続開始のときに遡って相続人でなかったことにも帰する筋合である。このような場合には遺言の効力確定のときまでは家庭裁判所が選任した相続財産管理人の代理権はなお消滅しないものと解するのが相当であり、このことは民法九五六条第一項が代理権消滅の時期を九五五条本文の規定にかかわらず、単に相続人出現のときとせず、相続承認のときとした法意を類推すれば明らかである。その他職権をもって調査しても、具体的相続分ないし遺留分を有する相続人はいない。よって現段階においては相続財産管理人を解任すべき限りでないから申立人の申立を却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 坂東治)

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